2018.10.22
周年記念シンポジウム
森紘一 

 今年の里山アート展は20日に終了した。撤収作業はほぼ終わったが、翌朝21日の大塚秀夫さんの大賞受賞作「大地に恵みを」が最後の片づけ作業となった。 

その後、10時過ぎから和彩館前の展示館会議室でシンポジウムが開かれた。豊実は終日、素晴らしい秋空でした。

「コスモ夢舞台にみる里山資本主義」と題したシンポジウムは、「里山アート展」の開催15回目を記念するにふさわしいテーマで、会場の皆さん(と言っても、基調講演の佐藤さんを含めて9名でしたが)の感想や意見も、それぞれに実感がこもって素晴らしい内容でした。 

エコノミストの藻谷浩介(もたにこうすけ)氏とNHK広島取材班が、新しい経済のあり方やライフスタイルに迫ったドキュメンタリーから生まれた一冊が『里山資本主義』(2014年7月刊行)で、当初から話題のベストセラーとなっていました。 

里山に息づく資源に価値を見出す考え方や生き方は、これまでもさまざまな個人や団体などにより提唱され、実践されている。里山資本主義は、従来の理念や活動を継承しつつ、里山に「金銭換算できない価値」と「金銭換算可能な価値」の両方を見出して、都会人と地域で生きる人の両方に、里山の価値を最大限に活用することを求めている。

実際に、都会で暮らしていた人が里山に移り住み、自給自足に近い生き方を実践する例は少なくない。そこまでいかないまでも、自然や文化、地域の人びととの交流を楽しむグリーン・ツーリズムを行う人は多い。

里山資本主義は、現在の社会の仕組みを維持しながら、自然や地域の資源を持続可能な形で生かし、これまでのマネー資本主義に足りなかったものを補おうという考え方といわれている。 

今回のシンポジウムは、はたしてコスモ夢舞台の里山資本主義度(?)はどの程度なのかを語り合ってみよう、という佐藤さんの狙いがあったようです。 

佐藤さんはまず、日常生活に欠かせない水と食料と燃料の確保に、豊実ではどう取り組んでいるかをスクリーンに映し出していった。

山から水を引いている急斜面のパイプとその設置作業のひとコマ、荒廃した田んぼを復活させ、無農薬米を収穫するために購入されたコンバイン、さらに森林整備で切り出された杉材の薪の山と「桃源の湯」に集められた廃材の山など、そのどれもが自然とともに生きる姿の数々であった。

また、自慢の無農薬米や物産から加工商品化された玄米ドリンク、イベント会場で人気のロケットストーブで焼いたエゴマ味噌だれの五平餅なども映し出されていった。 

過疎の集落である豊実は空き家もふえている。里山アート展の室内会場となった「展示館」は空き家対策の一環として考えられたものである。すべて我われの手づくりによる修復である。隣の「ホスト館」は、研修生やウーファーの宿泊施設となっている。あるものを生かし、再生していくという考え方は里山資本主義そのものといえる。

循環・再生・創造という里山アート展で培われたコスモ夢舞台の精神は、こうして地域づくりにもつながっている。 

そして今や、高齢化していく我われの労働力不足を補う意味でウーファーの存在は大きい。彼らが、いろいろな活動やイベントに参加することは国際交流であり、豊実が国際村と呼ばれる所以となっている。

 かつて「アートで何ができるか?」を問い続けてきたコスモ夢舞台が、“お金に依存しない”経済のあり方を説く里山資本主義の半歩先を行く存在に進化したかどうかはわからない。しかし、佐藤さんに話の矛先を振られた一人ひとりの意見や感想には、明るい明日を垣間見ることができたような気がした。 

・研修に来て5ヶ月が過ぎたというK君は、経験したことのすべてをこれからの生き方に活かしたいと語った。

・豊実に来ることが楽しい。元気をもらえると長老のTさんは言う。

・ここにきて日は浅いが、手づくりの大切さを知った。星空の美しさには驚いた、とFさん。

・豊実で2年半過ごして、良い経験をした。すべての活動やイベントには下準備が必要であることを学習した。  コスモ夢舞台との交流は続けたいとFさん。

・ここに来ると、非日常の生活体験ができる。地域づくりの意義深さを知ったとKさん。

・豊実での学びを大切に、充実した人生を送りたい、とOさん。

・豊実に来るとエネルギーが充電できる。元気な限り通いたいとMも続く。

・最後にMさんは、当初は嫌だったが、今では豊実の暮らしが気に入っている、皆さんと会えるのがとても楽し     みです、と締めくくった。

 約1時間半のシンポジウムを終って、佐藤さんは疲れた様子だったが、昼食後には満足げな笑顔に戻っていた。