2016.07.23
個展最終日のひととき
森紘一

  佐藤賢太郎石彫展の最終日(19日)は、16時から搬出作業の予定になっている。当日、若いころの仕事仲間のT女史から、11時半頃行ってもいいですかとメールが入ってきた。

11時すぎ、6階の美術画廊に着くと会場はガランとしていた。あらためて作品を、右から左へゆっくり鑑賞して廻った。

企画作品のコーナーのテーブルの上に、佐藤さんの筆と思しき文字で“宇宙からのメッセージ”と余白に書かれた小さな説明文が貼られている。

 中繁芳久さんとのコラボレーション作品が飾られたこの一角は、白い大理石を細工した小さな作品が多く、作品名として二つの言葉が並べられているが、作品との意味合いは直ぐにはつかみにくい。佐藤さんではないが、企画意図を大きく表示できなかったことは残念である。

11時半丁度に現われたTさんからも案の定、「これは何ですか?」と問われることになった。

 この世に生を受けたものは誰もが、それぞれの役割と使命が与えられている。ここに、佐藤さんと中繁さんが共鳴し合う通底音がある。

そこで、各自の生年月日から割り出される数字をもとに、中繁さんが名付けた「彩音表(あやねひょう)」から二つのキーワードと宇宙の波が特定される。

石彫作家の佐藤さんは、それらをもとにイメージを膨らませて石を彫り、作品として具象化を図る。作品は抽象であり、極めて個別的で、同じものはない。これが作品の魅力であり、企画の特異性となっている。

 熟達の仏師が魂をこめるように、すべて佐藤さんが全身全霊で注文主の期待に応えた力作ぞろいである。

そこには、ギリシャやモロッコの体験を含めて、佐藤さんのこれまでの実人生から生まれたアート感覚が総結集されている。

 この後、会場のソファーに腰を下ろして、しばし佐藤さんと対談する時間がもてた。

「きょうは来てよかったです。素晴らしい企画にも巡り合えて楽しかったです」

Tさんは恐縮しながらも、感想を述べはじめた。

Tさんは美術関係の専門家ではないが、企画会社のプランナー上りで、気鋭のコピーライターでもあった。

 作品とタイトルを見比べながら、しきりと頷いていた様子を尋ねると、作品と対峙した時、コレクターはどんな喜びを得るのだろうかと考えたという。

自分の役割や使命を知ることで、悶々とした日常の葛藤から目覚め、生きる喜びや勇気が湧いてくのではないかと想像したという。

 その満足感は多分、“宇宙からのメッセージ”を受信できたという確信にちがいないと思う。今や話題の「ポケモンGO」のスマホ遊びとは全く異次元の、新しいビジネスモデルが誕生するかもしれない。

間もなく、感動して帰ったTさんから企画プランが届くことになっている。石彫作家の佐藤さんにしても、あるいはコスモ夢舞台にとっても、次なる飛躍へのきっかけになるのではないかと、期待を寄せている。