2021.1.23
ストーンサークルづくりに想う
森 紘一

 平成18年(2006)の豊実日記にこんなくだりがある。

 4月23日(日)豊実/快晴 午前10時半過ぎ、小林達雄先生が学芸員の宮尾さんと到着された。先導車は佐藤光義さんだった。さっそく、賢太郎さんの案内で「滔々亭」「蔵・銀河」「ふくろう会館&ギャラリー」を見学され、「悠々亭」からストーンサークルの候補地・臨時のヘリーポート場へとクルマで周回された。クルマを降りて、里山アート展会場を見下ろせる一角から細い山道を登ると、直ぐに元は畑地だという200坪近い広場にでる。噂どおり、電線の見えない四方八方は開けて、陽ざしの暖かさに汗ばむほどの別世界があった。広場の裏手上にはクルマ道もあり、そこからは石材の運び下ろしも容易にできそうだ。この絶好のロケーションが、賢太郎さんの先祖の土地であることにも不思議な縁を感じてしまう。
 
 「コスモ夢舞台」にさらなる夢を重ねることができたらと心は躍るが、はたして今回の視察で小林達雄先生は豊実にどんな印象を抱かれただろうか。仮に実現可能だとして、この壮大なプロジェクトの構想と実行計画に、ふくろう会を母体とするコスモ夢舞台実行委員会はどのように関わり、どれほどの努力と熱意を維持していけばよいのだろうか。そしてまた、行政や地元の人々への働きかけや石材と運搬のマンパワー費用の捻出はと、問題点がつぎつぎと浮かび上がってくる。
 折しも、6月の一ヶ月間、賢太郎さんはギリシャの「石彫レジデンスプログラム」に参加される。

 平成18年(2006)6月、日本を発った佐藤さんはギリシャのイオニア海に面したパルキ港にゴルゴーナ『融合』を制作・設置し、さらに平成26年(2014)2代目ゴルゴーナ『絆』をクルータビーチに制作設置している。こうして、まさに民間ベースで日本とギリシャにはゆるぎない友好の橋が架けられている。視点を代えて大胆に発想すれれば、これは地球規模のストーンサークルづくりだったと言えないだろうか。

 あれから15年の歳月が流れている。令和3年(2021)の今年、5月末から開催予定の第3回奥阿賀国際アートフェスタは主題をストーンサークルと佐藤さんは決めている。とはいえ、縄文期に造られたであろう秋田県の大湯環状列石のような壮大なストーンサークルの再現をめざしているわけではないだろう。そもそもストーンサークルとは何なのか? 日時計なのか、お墓なのか、何らかの祭紀場なのか判然としない。いずれにしても、縄文人は損得や勝ち負けとは別の高い精神性を持っていたようだ。それは、魂の世界を重要視する生き方と言えるかもしれない。

 ところで、2回目の緊急事態宣言が発令されてからも新型コロナウイルスの感染拡大はますます進み、先行きの見通しが見えてこない。いつの間にか、国内の死者は(1月23日現在)、5千人を超えている。恐ろしいことである。
 「なぜなのだろう?」「何か間違っているのだろうか?」こんな不安を機に、これからは、生き方を、生活スタイルを変えていこうという機運も生まれている。
 真の豊かさとは何かを問い続ける佐藤さんが、あえて今年のアートフェスタのテーマとしてストーンサーククルづくりを選んだ遠因もここにあるようだ。アートをほどこされたこのパワースポットはパンデミックを阻止するだけではない。人の生き方を質すフィールドとして地域に密着し、時間をかけてでも新しいテーマパークとして育ってもらわなければならない。

 令和のストーンサークルが豊実の地に誕生する。佐藤賢太郎とコスモ夢舞台にとって、それはギリシャのゴルゴーナと並ぶ東西の夢の実現である。