2012.10.06
有難い、教え子
佐藤賢太郎

私が30代で中学校教師をしていた時、私のクラスに小板橋恵蔵君という教え子がいた。当時、私は柔道部の顧問をしていて彼は途中から柔道部に入ってきた。一度だけ竹刀で彼の尻を思い切りたたいた記憶がある。その後、彼は頭角を現し柔道の強い高校に進学し、活躍をしたようだ。彼はバルセロナオリンピックで金メダルを取った柔道の吉田秀彦に風貌がとても似ている。無口であるが行動の人である。

歳月が流れ、私は中学校の教師を辞め、彫刻家になろうと決意したある日、電車の中で偶然にも彼と出くわした。彼はその時の私の言葉を忘れていない。私は電車の中で彼に「厳しいことと楽なことに出合ったら、厳しい方を選べ、おれはその道を選んで彫刻家になる」と言ったそうである。

彼は親の家業を継ぎ、屋根葺きをする板金屋さんになった。体調不良やいろんな困難に会いながらも、今は従業員を多く抱える立派な社長になっている。そしてコスモ夢舞台の会員でもある。コスモ夢舞台の桃源の湯、悠悠亭の屋根は無償でかけてくれた。その彼の心意気に感謝している。そして悠悠亭の屋根ふきの時に連れてきた、若い従業員の態度の良さを今も覚えている。それは言うまでもなく、小板橋君の指導教育の素晴らしさであった。

さらに年月がたちました。ふくろう会館&アートギャラリーはコスモ夢舞台のシンボルとなるリフォームの建物であります。仲間で作った会館は2001年にオープンしたが、その時、屋根が古くなっていたのでコールタールを塗った記憶がある。以来、メンテナンスをしていなかった。

今年私はどうも怪しいと思い、ある方にペンキを塗ってくださいと頼んだ。ところが、もうペンキを塗る状態ではない、屋根全体を葺き替えるしかないとの答えであった。それには、何百万円も費用が掛かりそうである。しかし、ふくろう会館&アートギャラリーの入場料は年間1万円余である。収入もない、資金の余力もないのにコスモ夢舞台のシンボルであるふくろう会館&アートギャラリーは残したいと、私は困ってしまった。

この時、思い出したのが小板橋恵蔵君である。ともかく、安く上げるにはどうしたらよいか電話で相談をした。すると9月に早速、忙しいなか埼玉から突然下見に来てくれた。彼が言うには「コンパネを100枚用意してくれますか、トタンではなく、会社にあるものを生かし何とかしましょう」と言う。なんでもいい、お金がかからないで私が生きている間、会館が維持できればそれで最高、何とかしましょう、との言葉がとても有難かった。またしても、彼のその凄い心意気に頭が下がる。私は、そんなに良い教師ではなかったのに。

その彼が10月6日早朝4時に埼玉県川口を出発、10人の従業員を連れて豊実に朝8時半にやってきた。時間がないからと言って、お茶も飲まず早速屋根に上がる。私は、社長の小板橋君と従業員の仕事を垣間見ながら、何と素早い動きなのだろうと、ただ感心させられた。ほとんどが20代の若者であった。

今時の若者がと言うがとんでもない、無駄口ひとつ言うわけでもなく、きびきびとして、しかも言葉使いも、社長、先輩、後輩としっかりしていて聞いていて気持ちがいい。動きに無駄はなく、ものすごいスピードで屋根を葺き替えてゆく。彼らは入社からこんな立派な人間だったのだろうか。

一日で50坪の屋根を葺き替える(コンパネ100枚分)。そして一日で終えるため、昼飯もさっさと切り上げる。その昼ごはんの時、社長の恵蔵君は従業員と和やかで、家内も笑いを醸し出してくれ、休憩は束の間であった。私は玄米菜食の大切さを話した。

今にも雨が降りそうであったが3時半には全て作業が終わった。ゆっくり夕食でも食べてほしいと思ったのに、社長の小板橋君は帰りがあるのでそうはしていられないという。家内に弁当を作ってもらうことにして、集合写真を撮った。改めて、みんなのすごさに感謝した。言うまでもなく、先頭に立って仕事をする社長の小板橋君の姿に若者がついてゆくのだろうと感じました。

帰り際に私は小板橋君に「請求書お願いします」と言うと、社長は笑いながら私に「そんなのは要りません」と言われた。これでは一生頭が上がらないことになりそうだ。交通費、人件費、材料代だけでも、かなりになるはずだ。体を張って仕事をする、それをいとも簡単に「もらえないです」と答えてくれる。ここに彼の凄さを感じます。

私はこの頃しきりに「この世で大切なものは、いのちであり、人との共生、自然との共生である」と誰にも言っています。私は小板橋君からの信頼がなければ、この様にしていただけないと思います。そう思うとまさに人との共生を感じます。お金や名声はないが、人という財産を天から頂いていることに感謝申します。

   コスモ夢舞台はこうした精神を大切にしたいと思います。そして、いつでも夢や高みを目指すNPOにしていきたいと考えています。