2016.04.17
父の田舎ぐらし
古田修一 

 私事にはなりますが、今月号ではまず私の父のことについて触れたいと思います。

 父はかねてより都会を離れて田舎暮らしをすることを考えていました。もともと出身は鹿児島県の西之表市(種子島)で、仕事を引退した後は、種子島に帰りたいとの気持ちがありましたが、なかなか実現することができませんでした。しかし、さまざまな人との出会いの中から、種子島のような海のある土地ではありませんが、自給自足の生活が基本となるような田舎へ移住することがきまり、この4月から移住の準備のために、現地に行くことになりました。

 今回父が移住を決めたところは、新潟県阿賀町豊実です。2年前に自然塾を開催した地で、山に囲まれた自然豊か静かな集落です。以前もこの塾長の手紙で紹介させていただきました『NPO法人コスモ夢舞台』の代表である佐藤賢太郎先生のご尽力のおかげで移住をする機会を与えていただきました。

 佐藤先生は、長年NPOの活動や、アートを通して都会の人と過疎化した町の人との交流で、地方再生に向けて活動されてきました。その活動が軌道にのり、今年からは、豊実への移住者の受け入れ支援を本格的に始め、さらに田舎暮らしのよさを伝え、地方の活性化にむけて走り出すそうです。そんな佐藤先生の活動のお手伝いをさせていただきたいとの父の気持ちもあり、移住が決まったのです。

 移住するといっても簡単なことではありません。最近地方の行政では、移住支援をしているところが多くあります。しかし、その多くはただ空き家の提供をするというだけのものがほとんどです。佐藤先生も、ご自身のブログにも書いてありますが、住む家はあっても、地元の方との人間関係を築くのには時間がかかります。人間関係を築けずに、せっかく移住した地を離れなくてはいけなくなった人もいるそうです。行政はハード面に関しては強くても、人と人との心に関するところまでのサポートはしきれていないように思えます。

 そこで、佐藤先生のような地元の方が、パイプ役になっていただけると、ひとりで地元の方との信頼関係を築くよりも、スムーズに入り込むことができます。もちろん、本人の努力も必要ですが。

また、一番大きな点は、付き添ってくれる母の支えがないと実現できないことです。母は都会暮らしが長く、70歳を過ぎてからの何もない田舎での生活に相当不安を抱えています。そんな不安を抱えつつ父についていくのですから、相当な覚悟を持ってのことです。決して自分ひとりの夢だけでは動くことができません。私も以前妻に冗談で「俺の夢は年をとってから屋久島で暮らすことだ!」なんていったことがありますが、即「冗談じゃない!」ってしかられました(笑)。でも、田舎暮らしへの憧れはあります・・・。

   そう考えると、父自身が夢を持って移住をするといっても、さまざまな方の協力がなければ夢を追い続けることはできないわけです。あとは、地元の方に恩返しができるような活躍を期待しています。また、私も応援していきたいと思っています。

父のほかにも、一人移住を強く希望されている方がいらっしゃるそうです。地方再生と都市部と田舎の人たちの交流に向け意欲的な方々の輪が広がっているところですので、今後の本格的な活動が楽しみでもあります。

 父が住むところは、豊実駅の目の前。立地としては最高です。ところが、長年空き家になっていたところですので、家の中はだいぶ傷んでいるところが多くあるそうです。まずは、家の清掃と整備から始めているようです。家は広く、風呂場やトイレも複数個所あり、厨房は業務用で、宿泊客を泊めることができるような家です。整備が終わった後は、コスモ夢舞台の活動で宿泊施設として利用するとのこと。私たちも以前自然塾を開催しましたが、今度は、父の家を利用して自然塾を再び開催することができるかもしれません。

 田舎での暮らしはすべて自分自身でやらないといけません。自分たちが生活する環境を整え、自分たちが生きるために食べる野菜や米を育て、生かしていただく自然を守っていかなくてはいけません。私も含め現代の都会人は、お金を出せば与えてもらえる、恵まれすぎている環境にいます。そういった意味では、豊実のような集落での生活体験は、子どもたちだけではなく我々大人にとっても、教育的な意義があります。今後も父が関わっていくコスモ夢舞台の活動に注目し、私自身もできるところから関わっていきたいと思っています。